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<158>伝えたいこと 工夫が必要

2020年1月29日
伝えたいこと

伝えたいこと

 先日、テレビのニュースを見ていたときのこと。
 阪神・淡路大震災の年に神戸で生まれ、その後も神戸で育った人が、震災についてどう思っているかを語っている場面が映っていた。その人の発言の中に、「震災のことは、言われ過ぎて聞き飽きて、ピンとこなかった」という言葉があったのが印象に残った。
 この発言には、重大な問題提起が含まれていると思う。
 多くの人たちは、自分が重要だと思うこと、多くの人に伝えたいと思うことほど、何度も繰り返し話すべきだと考えている。戦争、災害、事故などの記憶を風化させないこと、そこから学んだ教訓を生かし、後世の人たちが同じ過ちを繰り返さないように語り伝えることは、とても意義のあることだ。
 しかし、伝えようと思っている側のメッセージが子どもたちにどの程度伝わったのかが検証されることは、滅多にない。より確実に伝えるためには、何度も繰り返すのがよい、と無条件で信じている人が多いが、果たしてそうだろうか? 決してそうではないことを、冒頭の発言は示しているのだと思う。
 このようなことは、日常的にも頻繁に見られる。親や教師が大事だと思って何度も繰り返し強調することに限って、子どもが反発を感じ、むしろ拒否反応を示すようになる、ということを、われわれ児童精神科医は外来でよく経験する。中でも思春期の子どもたちは、親の世代が大切にしている価値観にこそ反発を感じやすいものだ。
 歴史を振り返ってみると、親世代の価値観の押し付けに反発した子ども世代が新しい価値観をもつことによって、社会の常識や文化が変わっていくのは、世の中の進歩とも言える。ただ、気をつけないと、本当はいつの時代にも大事なことなのに変な揺り戻しが生じて歴史が後戻りしてしまうようなことも起こり得る。われわれは、自分たちが学んだことをどうすればインパクトをもって子どもたちに伝えることができるのか。そのような伝え方について、考えていかなければならないと思う。
 ちなみに、冒頭の神戸の人は、自分の妊娠を機に母親から自分を妊娠していた時の思い出を聞いたとのこと。母親が震災直後の混乱のなかで大変な思いをして自分を守り育てたことを実感し、そこではじめて震災の悲惨さに思いをはせることができたそうだ。何度も繰り返し言って聞かせるのではなく、歴史の資料に触れることや、その当事者の気持ちを疑似体験することなど、子どもたちが実感できるような方法とタイミングの工夫が必要なのだと思う。
 (本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は、次回は2月12日に掲載します