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<150>褒められることの圧力

2019年9月25日
気持ちに寄り添って

気持ちに寄り添って

 褒められると子どもは必ず喜ぶと思ったら大間違いだ。
 例えば、「ご飯を残さず食べてえらいね」と親が子どもを褒めることがある。いつも好き嫌いなくよく食べる子どもなら、褒められて嬉しいかもしれない。でも、好き嫌いが多くて普段は出されたものを完食することが難しい子どもの場合は、少し違う。たまたまお腹が空いていて、しかも出された料理が好きなものだったから、その時だけは残さず食べたのかもしれない。普段は残しても「いいよ、いいよ」と言っている親が、その時だけは「全部食べてえらいね」と褒めると、「ああ、この親は、本当は全部食べるのがえらいと思っているんだな。普段の自分は親に認めてもらえていないんだな」と感じる可能性がある。
 小学校では成績がよかったが、中学生以降に少し成績が下がり、いろいろなメンタルヘルスの問題が出て学校に行けなくなったという人を診察する機会が、しばしばある。そのような人たちは、小さい頃から親からの圧力をいつも感じてきたと語る。けなされたり叱られたりしてきたわけではない。むしろ褒められることの方が多かったかもしれないのに、である。親の価値観を察して、親が褒めやすいような優等生でい続けないと、この家には自分の居場所がない、と思い込んで子ども時代を過ごすのだ。
 子育て中の母親たちから、同様の相談を受けることもある。わが国では、いまだに子育ての責任を母親に押しつける雰囲気が強いため、母親が「理想的な母親」を目指さなければならないようなプレッシャーが常に存在する。これは僕自身も気をつけなければならないことだが、担当する子どもの母親が何か子育てで頑張ってできたときに「よく頑張りましたね」と褒めると、「医者に褒められるような良い母親でなければならない」という無言のメッセージを押しつける可能性がある。
 褒めるとは、価値観を押しつけるのではなく、相手が喜びや達成感を感じているときに、その気持ちに同調することなのだと思う。子どもを褒める場合、大人がやらせたいこと、大人が望ましいと思うことだけを褒めていると、子どもは圧力しか感じない。子どもが心から嬉しいと思い、その気持ちを誰かと分かち合いたいときに「やったね」「よかったね」と言われると、喜びが一層大きくなる。大人の価値観を押しつけて褒めるのではなく、褒めた後の子どもの気持ちを想像しながら褒め方を考えたいものだ。これは、大人同士でも言えることだが。
 (本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します