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<146>「謎かけ」する親の心理

2019年07月24日

 診察のときなどに、突然親が子どもに「何て言うんだっけ?」などと謎かけをして、子どもが答えられずに黙ってしまい、気まずい雰囲気になることがある。
 たとえば入室してきたとき。着席しようとする子どもに対して、
親「ほら、最初に言うことがあるでしょ? 何て言うの?」
子ども「…………」
 あるいは、診察が終わって席を立とうとする子どもに対して、
親「何か言わなきゃいけないでしょ? 何て言うの?」
子ども「…………」
 ここで、ヒントを出し始める場合もある。「あ………、なんだっけ?」「あり………」「ありが………」
 「ありがとうございました」と言わせたいらしいのだが、ここまでくると子どもはむしろ固まってしまう。僕も、横から口出しするわけにもいかないので、黙って見ているしかない。
 親としては、子どもが普段できていることをその場でやらないと、僕が子どもの能力を低く評価してしまうと危惧するのかもしれない。事実、「普段はちゃんと言えるんです」などとその場を取り繕うような発言をする親もいる。
 慣れない場面で、子どもが普段ならできることをしないことは、よくあることだ。ましてや、何か困っていることがあって児童精神科を受診しているのであれば、緊張などで挨拶やお礼の言葉を言い忘れることなど、あるのが当たり前と言ってもよいくらいだ。僕もそこで挨拶できるかどうかで子どもの能力判定などしない。
 むしろ、そこから見えてくるのは、親の心理状態だ。困ったことがあって相談に来ているはずなのに、なぜ子どもが挨拶やお礼ができることを僕に見せようとするのだろう? 挨拶やお礼の言葉を発しない子どもに対して、親はちゃんと気づいて指摘できるんですよ、とアピールしたいのかもしれない。あるいは、保育園の先生に発達の遅れを指摘されたから仕方なく来たけれど、本当はこんなところに来るのは親としては不本意で、子どもが挨拶くらいちゃんとできることを示したいのかもしれない。いずれにせよ、親が肩身の狭い思いをしていること、親のしつけ不足ではないとわかってもらいたいことなどを感じるのだ。
 子どもの立場から見ると、しょっちゅう謎かけしてくる親には、安心して頼ることができない。親を頼ろうとしても受け止めてくれず、かえって謎かけで問い返されるのだから。このような状況を見たとき、僕は子どもの心の問題だけでなく、いやそれよりもまず、親の心の健康への対応を優先することにしている。(本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します