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サンセット<139>

2019年6月14日

 梅雨に入った。この時季では過去最高というほどの強烈な日差しが影をひそめ、幾分涼しくなった。曇り時々雨の状態が続いている。玉ネギをすべて収穫しておけばよかったが、まあ仕方ない。晴れたら大急ぎでやるしかない。しかしナスやインゲンマメ、サトイモやスイカなど農作物にとっては恵みの雨だ。
 高校時代の同級生松村輝明から電話があった。「婆ちゃんは相変わらずかい」と言いながら「ニンニクを収穫したから持って行くぞ」という。毎年今頃は必ずこの電話がくる。どうにも自分の家族で始末がつかないほど、たくさんのニンニクを栽培しているらしい。この時季この会話はもう6年も7年も続いている。その都度、俺の返事は決まっている。一言「いらないよ」だ。すると松村は言う、
「黒ニンニクの作り方を教えるぞ」
「悪いけどな、興味はねえよ」
「そうか、ところでなあ、今度の酒カラ(酒とカラオケの会)は6月の末頃でどうだ」
 本題はいつもこれだ。黒ニンニクは枕ことばのようなもので、季節によりいろんな枕ことばがある。ニンジンの時もあればトウモロコシやダイコンの時もある。本題の前には、毎回この面倒臭いやり取りがある。
 とにかく彼は定年退職してから農作業に没頭しているらしい。かなり大きな畑を持っているようだが、あえて詳しいことは聞いたこともない。何年か前には50センチ以上もある大塚ニンジンを大量に頂いたことがあった。あれは美味しかった。
「みんなの都合を聞いて、日時を確定してから連絡くれよ。婆ちゃんがショートステイの時なら行けるから」
 それで電話を切った。この酒カラメンバーは6人で、仕事の現役は1人、たまにアルバイトをしているのが2人だ。3人は完全リタイアしている。しかも1人は病気で胃を30%もカットした。常時薬を持ち歩いていないのは俺だけだ。もっとも俺だって時々腰痛が再発するから、必要に応じて薬の厄介にはなっている。
 正直に言えば、先日町の健康診断を受けたから、その結果が届くまでちょっと不安ではあるのだが。特に超音波検査の最中、女性の検査士さんがモニター画面を見ながら小声で「あれっ」と言ったのが気になる。
「どうしましたか、何かありましたか」
「あっ、いえ、たいしたことでは。すみません」
「何かあったら言ってくれた方が有難いですが」
「大丈夫だと思います。いずれ検査結果が送られますから、それで確認してください」
 それ以上は聞きにくかったので、そのままになった。「大丈夫です」ではなくて「だと思います」がついた。そこに気持ちが引っかかるとなかなかぬけきれない。
 何事によらず、人はちょっとした懸念があれば良い方には考えず、時間を追うほどに悪い方へ考えが向くものらしい。考えていると具体的に不安が増幅される。そういえば最近酒に弱くなったなあとか、以前よりも胸焼けが酷いなあとか、肝臓はどうだ、胃腸は、肺は、心臓はなどと次から次へ。今まで健康だったからといって、これがいつまで続くかは分からない。なにしろ俺だって、婆ちゃんほどではないにしろ立派な(?)高齢者なのだ。

=「サンセット~SunSet~」は実話をもとに、日常に伴走しながらリアルタイムに現実を描く小説で、金曜日に掲載します