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<138>「熱中できるもの見つけて」

2019年03月27日

 イチロー選手が、現役引退を表明した。ファンだけでなく、現役のプロの選手たちにとっても、まさに生きる伝説といえる素晴らしい選手だった。
 引退会見の一問一答がインターネットで公開されている。会見で記者から子どもたちへのメッセージを求められて、イチロー選手は次のように答えていた。
 「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げる。そういうものを早く見つけてほしいなと思います。それが見つかれば、自分の前に立ちはだかる壁に向かうことができると思うんですね。それが見つけられないと壁が出てくると諦めてしまうということがあると思う。いろんなことにトライして、自分に向くか向かないかというより自分が好きなものを見つけてほしいなと思います」(一部省略)
 言葉を慎重に選び、実に配慮に富む内容だと思う。何事かを成し遂げた人たちが子どもたちにメッセージを求められた時、そこには「がんばれば夢はかなう」「諦めない」「努力が大事」という内容が含まれることが多い。確かに、成功した人たちは夢を持ち、諦めずに努力を続けた結果としてうまくいったのだが、では諦めずに努力したら必ず夢がかなうかというと、そう簡単にはいかない。
 イチロー選手は、すべての人が必ずしも成功するわけではないとわかっていて、保証できないことを軽はずみに発言しなかったのだと思う。確実に言えるのは、「熱中できるものがあれば、壁にも諦めずに立ち向かえる可能性が高まる」というところまで。そして、壁の出現は本人にどうすることもできないので、結局は「熱中できるものを見つけてほしい」というメッセージなのだ。実にシンプルであり、すべての子どもたちが自発的に実行できる可能性の高い助言である。
 好きなことに熱中するのは、本能に近い機能であり、努力して得られる力ではない。しかし、熱中することを阻まれている子どももいる。阻んでいる要因の多くは、大人からのプレッシャーだ。好きなことに熱中させてもらえずに、それ以外のことで壁を設定されて乗り越えろと要求されている子どもたちが、かなり多いのではないだろうか。好きになれないのに「諦めずにがんばれ」と言われても、続けられるわけがない。好きなことに熱中させてもらえないと、人生の希望や楽しみも見えなくなってしまう。
 イチロー選手のメッセージはシンプルなようで、実は難しい。難しくしているのは、大人たちかもしれない。
 (本田秀夫・信州大医学部子どものこころの発達医学教室教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します