ホーム
最新
山梨
全国・海外
スポーツ
Eye
安心・安全情報
おくやみ・催し・人事
写真・動画
分かる・知る
ビジネス

<111>子どもなりに学ぶ世渡り

2018年02月14日
特別なものは…

特別なものは…

 娘が2歳頃、家族でデパートに行ったときの話だ。
 妻が買い物をしている間、僕と娘はオモチャ売り場で時間をつぶしていた。棚に並んでいる1体のぬいぐるみの赤ちゃんの人形に気づいた娘は、それを手に取り、その場にしゃがみこんで、「メメちゃん」とつぶやきながら、その人形を抱っこし始めた。
 僕が、「赤ちゃんはメメちゃんて言うの?」と尋ねると、娘は黙ってうなずき、大事そうに抱きかかえている。その様子があまりにかわいいので、僕はつい「メメちゃん、買おうね」と言ってしまったのだ。買い物を終えて戻ってきた妻は「何をばかなこと言ってるの?」と驚いたが、買うと宣言してしまったものは仕方ない。あっけにとられている妻を残し、僕と娘はメメちゃんを持ってレジに向かったのであった。
 子どもがどんなに欲しがっても、予定外のものを衝動的に買うということは、わが家ではめったにない。友だちと出掛けて、コンビニで他の子どもたちがオモチャのおまけつきのお菓子を買ってもらっているときでも、妻は「うちは買いません」ときっぱり言い放ち、交渉の余地など与えなかった。デパートのオモチャ売り場でも、売り場に並んでいるオモチャを適当に手に取って眺めたり、見本で少し遊んだりはしても、何も買わずにオモチャ売り場を離れるのが常だった。
 「メメちゃん事件」は、そんなわが家の方針と矛盾した。でもそれ以降、娘が頻繁にオモチャなどをせがむようになったわけでもない。ただ、たまにどうしても欲しい特別なものがあると、少し遠くを眺めるような目をしてその場にじっとたたずむようになった。その様子に、こちらは情にほだされて「いいよ。買ってあげるよ」と言ってしまうのだ。
 娘は、ふだん安価な物をその場の思いつきで欲しがっても親は買ってくれないことを、おそらく知っていた。でも、特別な物、特別な場合には買ってもらえることがあること、そして、直接せがむよりも親が子どもに「買ってやりたい」と思わせるようなやり方があることを、「メメちゃん事件」をきっかけに学んだのではないかと思う。方針が必ずしも一貫していないように見えても、何らかの法則が見えてくれば、子どもは子どもなりの世渡り術を学ぶのかもしれない。
 社会人になった今も、たまに「○○っていいよね」とLINE(ライン)でつぶやいてくる。僕や妻が「買おうか?」と返事すると「悪いからいいよ」などと言う。その一見殊勝な態度に、こちらはついだまされてしまう。得な性格に育ったものだ。
(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します