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<108>「頑張れ」はここ一番だけ

2017年12月27日
ほどほどに…

ほどほどに…

 大人が子どもに対してよく使う代表的な言葉の一つが、「頑張れ」だろう。子どもが何かにチャレンジしようとするときに使われる。それだけでなく、「来年も頑張ろう」などと仲間同士でも気軽に使われている。

 英語では、何かにチャレンジしている人に対して最もよく使われる言葉は「グッドラック(Good luck)」だ。「頑張れ」と「グッドラック」とは、ニュアンスが異なる。「頑張る」とは、頑なに張りつめること、つまり緊張した状態をことさらに維持することである。一方、「グッドラック」は「幸運を祈っています」という意味だ。「頑張れ」は本人の努力を煽るのに対して、「グッドラック」は運がめぐってくるのを願う。英語では、「You can do it」も比較的使われる。これも訳すと「今のままの君できっとできる」という意味であり、本人の努力を煽り立てることはない。

 実は英語でも「Try hard」や「Do your best」など、本人の努力を促す言葉がある。しかし、これらはあまり頻繁には使われない。何かとても重要な場面など、ここぞという場面は全力を尽くすが、常にベストな状態を保つのは難しいという認識がうかがえる。「普段の力でできるはずだよ」と自信を持たせ、「うまくいかないのは運もあるさ」と逃げ道も用意されている。このような状態だと、何ごとにも気軽にチャレンジできるし、もし失敗してもやり直そうという気力は損なわれない。

 「頑張れ」を多用する日本語の文化では、すべての人が常に気を張りつめて頑張り続けることが求められるのかもしれない。物事の成否は本人の頑張り次第で、いつも緊張感の維持を迫られ、運に頼ってはいけない…。子どもの頃からこのような状態にさらされて育つと、まだ若いうちから疲れてしまい、燃え尽きてしまう恐れがある。

 近年、カウンセリングや福祉の世界で「頑張らないでいい」という言葉がクローズアップされているのは、なんとも皮肉な話である。勉強や仕事などで子どもの頃から頑張り続けた結果、成人に達した頃にはすでに疲れ果てて、気力を失っている。その裏返しで、燃え尽きてしまった人に「頑張らないでいい」と慰め、癒やすというのでは、やりきれない思いがする。そうではなく、子どもの頃から「普段は頑張らずにリラックスして、ここ一番で思い切り頑張る。あとは良い運を待ち、だめでもまたチャンスがある」という意識を持っておくことで、長い人生を活力を持ちながら乗り切れるバイタリティーが育つのではないかと思う。
 (本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します