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<91>個々を知り素早く対応

2017年04月12日
キミのこと見てるよ

キミのこと見てるよ

 先日、ある保育園を訪問させていただいたときのこと。
 子どもたちが園庭に出て遊んでいる間に、園長先生が保育室の中を見学させてくださった。そこへ、保育士さんが3歳くらいの男の子と手をつないで部屋に入ってきた。保育士さんが僕たちとあいさつしていると、その子は先生の手を放して部屋の中にあったホワイトボードの方に向かった。ホワイトボードには、その日の予定や保育士さんの覚書のようなことが書かれていたのだが、その子はおもむろにそれらを消し始めた。気づいた保育士さんは、慌てて駆け寄ったのだが、そこから保育士さんのとった対応に、僕は感心してしまった。
 「あらあら、消えたらまずい」と言いながら、その保育士さんは男の子が手にしていたイレーザーをさっと取り上げ、もう一方の手で相手の手をとって「こっちにおいで」と言ってホワイトボードから離し、その上で消された内容を書き直した。その後はイレーザーをホワイトボードの脇には戻さずに、男の子としばらく一緒に過ごしていた。一連の対応の中で、子どもに注意することがないどころか、声を荒らげることすらなく、淡々と対応されていた。
 この保育士さんは、「イレーザーで消した」という子どもの行動でなく、「消されたら困る内容の書かれたホワイトボードとイレーザーを、すぐに子どもの目に入るような場所に置いていた」という自分の行動に対応したのだ。悪かったのは自分のとった行動なのに、子どもを叱るのは筋違いだ。こういうときは、なるべく早くかつさりげなく、子どもの注意をそらすに限る。サッとイレーザーを取り上げ、「ダメ」などと余計な注意をしなかったので、子どもはあたかも自分がイレーザーを持っていなかったかのようにあっさりと手放し、ホワイトボードへの注目をやめたのだ。
 もちろん、「○○くん、消さないで!」と鋭く一声かければハッと気づいてやめる子どもなら、保育士さんはそうしていただろう。この男の子は、まだ声かけによる注意ではわからない発達段階の子だった。そのことも保育士さんはよくわかっていた。
 個々の子どもを知り、問題が生じたときに要因を瞬時に分析して素早く対応する。この間、保育士さんは笑みを絶やさず、男の子も終始穏やかな表情だった。この保育園全体の雰囲気も同様で、保育士さんたちはみな明るく穏やかで、子どもたちはとても楽しそうに過ごしていた。子どもの健全な情緒を育てるために大切な実践の一つのあり方を、この園に見たように思う。(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します