ホーム
最新
山梨
全国・海外
スポーツ
Eye
安心・安全情報
おくやみ・催し・人事
写真・動画
分かる・知る
山梨日日新聞社インフォメーションサイト

<1>相談員の言葉に失望

2017年3月13日
KHJ全国ひきこもり家族会連合会が「長期高年齢化」をテーマに実施した調査の資料。当事者の2人に1人が支援の途絶を経験している実態が明らかになった

KHJ全国ひきこもり家族会連合会が「長期高年齢化」をテーマに実施した調査の資料。当事者の2人に1人が支援の途絶を経験している実態が明らかになった

 保健所のケースワーカーの口からいきなりその言葉が出たとき、カズオさん=仮名、国中地域=は、場の空気がさっと冷え込むのを感じた。「ところで、お仕事に就くことを考えてはどうですか」
 息子がひきこもりになって15年以上が過ぎた。もうすぐ40歳。カズオさんも、あと何年もしないうちに七十路になる。
 普段からあまり感情を表に出さない息子を、カズオさんは盗み見た。表情に変化はない。「年齢も年齢ですし。ねえ」とケースワーカー。「ええ、まあ」とあいまいな受け答えをする息子。カズオさんは「もう、やめてくれ」と目で訴えた。親としても息子がすぐに働けるとは思っていないし、誰よりもそのことを後ろめたく思っているのは本人だ。けれど、その後も就労の話に終始した。結論が出ないまま、本人と親、ケースワーカーの三者懇談は終わった。
 保健所に相談したのは、カズオさんだった。相手は支援の専門家だ。「ひきこもり」にも精通していて、他人に心を開くことが苦手な息子とも上手に信頼関係を築いてくれるものだと思っていた。だから、訪問支援をしてくれると聞いて、目の前に光が差したような心持ちになった。だが、希望はかなわなかった。
 保健所から次に電話があったとき、息子は「会わない」と言った。一度きりで支援は終わった。

●●●

 「何らかの理由で支援が途絶えてしまった、ひきこもり当事者は2人に1人。支援の場で嫌な経験をした人も34・5%に上っています」。KHJ全国ひきこもり家族会連合会(本部・東京都豊島区)が1月に名古屋市内で開いた、長期高年齢化についてのシンポジウム。愛知教育大の川北稔准教授は、支援が必ずしもひきこもりの解決に役立っていない実情があることを報告した。
 調査は、深刻化する長期高年齢化の実態を把握するため、家族会連合会が厚生労働省の助成を受けて初めて実施した。川北准教授は、全国の家族会支部が当事者や親から聞き取りを行った77事例を分析。カズオさんの家族を含む山梨の2事例も対象となった。「ひきこもり期間が10年以上・40歳以上の当事者」に関する61事例を長期高年齢化ケースとした。
 「精神保健福祉センターや市の担当者が変わったときに引き継ぎがなく、対応もばらばらだった」「看護師から『いい年なのに』と働いていないことを、やゆされた」。調査結果からは、当事者目線のサポートがないため、支援をあきらめてしまう本人や家族の姿が浮かぶ。

●●●

 支援者側も対応に苦慮している。生活困窮者自立支援法に基づいて相談窓口を設置している全国の自治体へのアンケートでは、「本人に現状への問題意識が薄く、支援を拒まれることがある」「過疎地であるために社会資源がない。居場所や地域のキーパーソンが不在」と困惑する声が寄せられた。
 長期高年齢化を防ぐには、早期発見と継続支援が欠かせない。家族会連合会の共同代表を務める中垣内正和医師は、シンポジウムの壇上で訴えた。「行政の担当者や専門家だけでなく、当事者の心情や状況が分かる経験者とその家族など、ひきこもりに関わる人々の協働が必要だ」

 家族会の全国調査で、ひきこもりからの回復へ「支援の途絶」が大きな問題としてクローズアップされた。なぜ支援は途絶えてしまうのか。つながり続けるための鍵は。県内外の現場を取材し、課題と継続支援を実現する方策を考える。〈「扉の向こうへ」取材班〉

 この連載へのご意見や感想をお寄せください。記事で紹介させていただくことがあります。郵便番号400-8515、甲府市北口2の6の10、山梨日日新聞社編集局「扉の向こうへ」取材班(ファクス055・231・3161、電子メールkikaku@sannichi.co.jp)。