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<84>全力疾走燃え尽きる危険

2016年12月28日
目標に向かって一歩ずつ

目標に向かって一歩ずつ

 「速く走るためにはどうすればよいですか?」と質問されたとき、スポーツの専門家ならまずこう問い返すだろう。「何メートルを走るのですか?」と。100メートルを速く走るために必要な準備と、マラソンを短時間で走るための準備とは、異なるからだ。100メートルを全力疾走するペースでマラソンを走っても、時間短縮どころか完走すらおぼつかない。
 何かに取り組むときには、目標と計画の設定が欠かせない。まずは何をしたいかを明確にして、次に具体的な方法を考える。長期的な目標を立てる場合には、中期目標や短期目標なども細かく設定して、少しずつ取り組んでいく。子育てや教育も同じだ。子どもが将来どんな大人になってほしいかという長期目標を念頭に置きながら年単位、月単位、日単位の目標を設定し、計画を立てていく必要がある。子どもの個性はそれぞれ全く異なるから、目標や具体的な育て方も当然個々に異なってくる。途中で目標ややり方の見直しが必要となることも多い。
 「常に目の前のことにベストを尽くせ」と子どもに言う大人を時々見かける。このやり方は、100メートルを全力疾走させながらマラソンの時間短縮を目指すようなもので、子どもが途中で力尽きてしまう。家庭、学校、習い事など、子どもの参加する場所が増えると、それぞれの場所の大人が子どもにベストを尽くすことを要求し、結果として子どもが常に短距離の全力疾走を強いられる状態に陥る恐れがある。学校も中学校以降になると教科ごとに担任が異なるし、さらに部活も入ってくるので、子どもに関わる大人が膨れ上がってくる。国語の教師は国語の成績が上がるために全力を尽くすよう要求し、部活のコーチは試合やコンテストで少しでも上位になるために最大限の努力をするよう迫ってくる。真面目な子どもほど、すべての大人の要求を真に受けて頑張り続け、途中で燃え尽きてしまう。
 「船頭多くして船山に上る」ということわざがあるが、複数の大人たちがそれぞれに「自分の教えることを子どもに全力で取り組ませたい」と思っていると、全体としてはバラバラな船頭の集団になりかねない。長期目標を常に共有し、いま全力で取り組むべきこと、ペースを落とすべきこと、やってはいけないことなどの配分を見据えて中期目標や短期目標を設定、更新していく必要がある。子どもが途中で燃え尽きることのないよう、関わる大人たちはよくコミュニケーションをとり、役割分担を決めておくことが重要だ。
 (本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します