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<1>スマホ 孤立防ぐ生命線 苦しい家計…娘が唯一ねだる

2016年12月20日
娘から贈られたブーツを履いてたたずむアヤミさん。親思いの子が唯一、無理を言ってほしがったのがスマートフォンだった=甲府市内

娘から贈られたブーツを履いてたたずむアヤミさん。親思いの子が唯一、無理を言ってほしがったのがスマートフォンだった=甲府市内

 「ねえ、お母さん。お願いがあるんだけど」。夕飯の買い物に行く車の中で、助手席に座っていた中学3年の娘がおずおずと切り出した。「スマートフォンがほしい」。アヤミさん(51)=甲府市、仮名=が「まだ必要ないでしょう? お母さんが中学生のころはなかったよ」と言っても聞かない。「だって、みんなの話に入れない」。すねた声で窓の外へ視線を向けた。
 アヤミさんは離婚して10年、3人の子どもを育ててきた。一緒に過ごす時間をできるだけ長く、と非正規の仕事を選んだが、不安定な身分でいつ解雇されるか分からない不安から、仕事を優先することも多かった。インフルエンザにかかり高熱にうなされる子に、「ごめんね」と謝って職場に向かったこともある。
 生活は楽ではない。収入は月10万円に満たず、家賃と光熱費、食費を引けばいくらも残らない。家計を察してか、娘は親が申し訳ないと思うくらい物分かりのいい子だ。友達と出掛けてもジュース1本買うのをがまんする。母親のくたびれた靴を見かねてか、ためた小遣いでブーツを買ってくれたこともあった。
 高額なスマートフォンを買うゆとりがないことは娘も分かっているはず。「スマホ」にこだわる姿に、アヤミさんは戸惑いを隠せなかった。

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 厚生労働省の2011年調査では、シングルマザーの57%は非正規雇用で、平均年間就労収入は181万円。母子世帯の45・8%が家計のやりくりに困っていると答えていて、ひとり親家庭の2人に1人の子どもが貧困状況にある。一方、内閣府の13年調査によると、全国の中学3年生の56・7%、高校生の97・2%が携帯電話・スマホを持っている。
 アヤミさんの娘が通う学校では多くがスマホを使っていて、友達の中で持っていないのは1人だけ。部活動の連絡もメール。持ち物が分からず、友達に登校前に連絡すると「朝から電話しないで」と迷惑がられたこともあった。
 毎晩のように、無料通信アプリLINE(ライン)で何時間もメッセージを送り合う。好きなアイドルの話で盛り上がり、撮影した写真や動画も共有する。学校の外でも、夜中でも途切れることがないコミュニケーションの輪に娘だけ入れない。次の日に登校すると、みんなの話についていけない。気づけばひとり、取り残されている。

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 今夏、子どもの貧困問題を扱ったテレビ番組で困窮体験を語った女子高生に対し、インターネット上で「貧困とは言えない」との批判が続出する騒動があった。「高価な文房具を持ち、外食も楽しんでいる」といった真偽不明の情報が基だったが、その一つが生徒が持っているとされた「スマホ」だった。女子高生バッシングに対し、識者らから「現代の若者にとってスマホは生命線だ」と反論する声が上がった。
 スマホがなければ仲間の輪からはじかれ、簡単に孤立してしまう。娘がほしがっているのは、おいしい食べ物でも、おしゃれな洋服でもなく、孤立に陥らないための結びつき。「ぜいたくだと思う。だけど時代が違う」。アヤミさんは自分に言い聞かせ、スマホを買い与えた。
 娘はゲームもしなければネットにもつながない。メッセージの着信音が聞こえたときだけ、うれしそうに手を伸ばす。送られてきた言葉や絵文字を眺めながら、私はひとりじゃないと確認しているのだろうか。「スマホさえあれば、つながっていられるから」。そんな娘の声が聞こえる気がする。



 経済的な困窮から孤立に向かう人がいる。日々の衣食住に窮する絶対的貧困だけでなく、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が困難な「相対的貧困」が広がる現代社会。貧困が就業を阻み、新たな貧困と孤立を生む「連鎖」も指摘されている。孤立の淵に立つ人を救うため、いま社会に何が求められているのか。「現場」の報告を基に考える。〈「孤人社会」取材班〉

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