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<79>叱る前にわが身振り返る

2016年10月12日
かまってかまって…

かまってかまって…

 先日、特急列車の車内でのこと。僕の席の並びにある2人がけの席に、3~4歳くらいの女の子が母親と2人で座っていた。
 はじめ、女の子は穏やかに座って、人形で遊んでいた。母親は、スマホをのぞきこんで操作に夢中のよう。女の子は、ときどき母親に向かって話しかけていた。「ほら、見て。○○だよ」「○○ってねえ、○○なんだよ」などと、遊びの状況を説明するような内容だ。母親は、話しかけられるたびに、チラッと女の子の方を見て「うん」「ああ、そう」などと軽く返事をしていた。
 そのうち、女の子が母親に話しかける頻度が増えてきた。(子)「ねえねえ、(人形の服の)ボタンがとれちゃう」、(母)「そうね、帰ったら直すね」。1~2分すると(子)「ねえねえ、これやって」、(母)「いいよ」…。そんなやりとりが断続的に続くうち、子どもがだんだん不機嫌になってきた。「ママ、まだ着かないの?」「降りたい」「おなかがすいた」などと言いながら、泣きそうな声を出し始めた。すると母親が突然こう言った。「ちょっと、○ちゃん、おりこうさんにしててねって言ったでしょ。ワガママ言わないで」
 幼児が乗り物に長時間じっと着席することは、難しい。はじめはおとなしくしていても、やがて飽きてぐずるのは、よくあることだ。そんなとき、この母親のように、おとなしくするよう子どもに注意したり叱ったりする親も多いだろう。「多少つらくても我慢する」ということを練習するのもしつけのうち、というわけだ。
 でも、この場面で女の子がぐずった要因のひとつは、母親がちゃんと相手をしていなかったことである。やりとりのきっかけは必ず子どもから。母親から先に子どもに話しかけたことは一度もなかった。子どもは、自分から働きかけないと大人が相手をしてくれないという状況では、心が満たされない。子どもがまだ何も言ってこないうちから、大人が子どもの気持ちを察して働きかけることは、子どもの情緒を安定させ、人への信頼関係を育てる上できわめて大切だ。女の子がまだ穏やかに遊んでいるときから、もう少し母親が積極的に子どもに働きかけていれば、ぐずることは防げた可能性が高い。ぐずらせなければ叱ったりする必要もなく、旅行はもっと楽しいものとなったはずだ。
 子どもがぐずったとき、親は叱ることを考える前に、「自分の子どもへの働きかけが少なかったのではないか」と、まずはわが身を振り返ることから始めてみていただければと思う。
 (本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)