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<66>体験の伝承共感が肝心

2016年03月23日
話、聞いてる?

話、聞いてる?

 僕は小さい頃から、広島出身の母に原爆の恐ろしさや戦争の酷さを聞かされて育った。終戦記念日のあたりは夏休みで、よく母の郷里に行っていたこともあり、僕にとって「昭和20年8月」は特別な意味があった。
 大学生の頃、何人かで雑談しているときに、誰かが「第2次世界大戦の終戦って、何年だっけ? ええっと、たしか1945年だったよね?」と発言した。別の人が「そうだよ」と言って、話題は変わっていったのだが、このとき僕はとてもショックを受けた。僕にとって終戦の年は、元日が1月1日であることと同じくらいの常識である。それを、まるで受験勉強で覚えた歴史の年表を思い出すようなやり方で思い出すなんて、信じられなかったのだ。
 でも、考えてみると、僕の世代は終戦から20年近くたって生まれたわけで、僕だって戦争を体験したわけでもない。たまたま母親が広島出身だったために実感をこめて子どもに語り継いだのだろうが、そうでなければピンとこない人がいてもおかしくない。
 戦争の記憶でさえそうなのだから、大人たちが体験したことを子どもたちに語り継ぐことは、本当に難しい。自分が何かを実際に体験した日時を記憶するのと、歴史の年表を記憶するのとは、全く異なるものだ。一番の違いは、そこに鮮烈な感情体験を伴っているかどうかだろう。「共感」という言葉があるが、何かの体験談を人から聞くときに、それを自分の体験と同様に実感し、感情をこめて記憶するかどうかは、語られた内容に聞く側がどの程度共感できるかどうかによる。話し手と聞き手の感情が共鳴すると、その体験は語り継がれるが、共鳴しなければ、ただの知識にとどまる。あるいは、知識にすらならず、忘れ去られてしまう。
 体験を語り伝えるのに最も大切なのは、聞き手の感情に訴えることだ。話しても反応に乏しい場合に、「伝え方が不十分」と思って何度も繰り返す人がいるが、情報の量が足りないことが問題なのではなく、そのやり方では相手は共感しないということだ。同じ話を繰り返していると、相手は「しつこい」と思って、かえって耳をふさぎ、心を閉ざしてしまうかもしれない。
 聞き手に共感してもらう話し方は、一通りではない。共感しやすいテーマ、内容、伝え方の手段は、相手によってもさまざまだ。大人が子どもに何かを伝えるとき、たとえ相手がわが子のように身近な距離にいる人であっても、自分とは違う感じ方をするかもしれないということを、心得ておきたい。(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)

「ドクター本田のにじいろ子育て」は第2、4水曜日に掲載します