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<60>一度に学べることは一つ

2015年12月23日
上手に書けたね

上手に書けたね

 あなたが何かの仕事をとても頑張って終えて、自分なりに満足のいく仕事ができたと思っているときに、全体からみると取るに足らないような細かいミスを指摘されて反省を促されると、どんな気持ちがするだろうか。何十ページにもわたる報告書を書き上げたときに、上司が内容を褒めずに数カ所の誤字・脱字だけを指摘したら? 家の大掃除を頑張って仕上げたのに、家族にわずかひと部屋のたんすの後ろのごみが残っていることのクレームだけを言われたら? おそらく相手の人間性を疑うのではないか。
 では、あなたに5~6歳くらいの子どもがいるとする。あなたの誕生日にその子どもが覚えたての平仮名で誕生日カードを書いてプレゼントをくれたとして、そのカードに書かれている字に間違いを発見したとしたら、あなたならどうするだろうか。研修会などで参加者にこのような質問をすると、「まずありがとうとお礼を言いつつ、字の間違いを指摘して正しい字を教えてあげる」と答える人が必ずいる。これだと、子どもは「せっかく頑張って書いたのに〓られた」と感じてしまう。冒頭の大人の話と同様、後味が悪い。
 大人は複雑な思考が可能だから、的確に褒められた上であれば、さらによい結果を求めてわずかに残る問題点を指摘されても、好意的に受け止めることができる。しかし子どもは、一度に二つ以上の内容を受け止めるのが難しい。カードを一生懸命書いたことをいくら褒められても、その後で誤字を指摘されると、最初に褒められたという事実が吹き飛んでしまい、〓られたことだけが記憶される。しかも、何らかの感情とともに学習したことはなかなか忘れないので、このような経験を何回か繰り返すと、「頑張ってもどうせ〓られるだけ」という学習を、悲しみや無力感とともに心に刻みつけることになってしまう。大人への信頼感も形成できない。
 大人は子どもにいろんなことを教えなければならないから、大変だ。何かがうまくできたときは褒め、できなかったときは正しいやり方を教え、間違えたときは訂正する。当たり前のことのように思える。でも、相手は子どもなので、一度に学べることには限界がある。一つの場面、一つの課題で学べることは一つ。ミスせず課題をこなすことが最も重要な場面では、ミスしないことを最優先し、ミスしたら確実に指摘すればよい。でも、本人が自発的に頑張ったときなどは、頑張ったことをたたえるだけにとどめておく。ミスを訂正するのは別の機会に回せばよい。
(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)
=第2、4水曜日に掲載します