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<59>ルール順守は大人の一歩

2015年12月09日

 僕が中学生の時のこと。授業中、ある先生が生徒たちに向かってこんなことを言った。「僕は、小さい子どもがいる交差点では、必ず信号を守るようにしている。子どもの前で信号を無視すると、『社会のルールは破ってもよい』ということを子どもに教えることになってしまう」と。「なるほどなぁ」と思った僕はそれ以来、小学生以下の子どもがいる時は、たとえ車が全くいない閑散とした信号もなるべく守るように心がけている。
 多数の立場が異なる人たちが同じ社会の中で生活していると、しばしば利害が対立することがある。ごくまれにしか対立が生じない場合には、その都度判断する方が効率がよい。しかし、頻繁に対立が生じる場合には、なんらかの一貫したルールを定める必要がある。めったに車が通らない交差点に信号を設置する必要はないが、交通量の多い幹線道路には信号が不可欠だ。ルールには、お互いが少しずつ譲り合うことによって、社会関係を円滑にするという目的がある。ルールを守らないと、相手の権利が侵害される。あるいは、自分の身に危険が及ぶ。
 いったん作ったルールが、状況が変わると形骸化することがある。かつてにぎわっていた道路でも、交通網の整備によって閑散としてしまうこともある。そうなると、信号はかえって邪魔な存在になる。守っても誰も得をしないし、守らなくても危険はない。そのような時、本来は現状に合わせてルール自体を変えるのが正しい対処法だが、手続きが大変だし、いま目の前にある面倒なルールを破りたくなってしまうのが人情だ。実際、誰にも迷惑がかからず安全な状況では、赤信号でも渡ってしまう大人たちは、少ないとはいえない。
 でも、ルールがなぜ必要かを理解していない子どもの前でルールを破ると、子どもはルールの大切さを学び損ねてしまう。子どもが社会性を身につけるには、まず自分の身を守ること、次いで他者の立場を尊重することを学ぶことが必須である。そのためにも、ルールを守る習慣を教えることはとても重要だ。
 冒頭のエピソードでは、もう一つの教育的意義がある。それは、ある程度分別のついた思春期の子どもたちに対して、「自分より年少の子どもたちにルール順守を教えること」を教えることである。それは、「君たちは、そろそろ子どもから脱却する時期だよ」というメッセージを送ることであり、多感な思春期のプライドをくすぐり、より成熟した大人のメンタリティーを形成することにつながる。
 (本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)
=第2、4水曜日に掲載します