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<57>選択の自由で意欲促す

2015年11月11日
お水ちょうだい

お水ちょうだい

 誰かに水を飲ませようと思ったら、皆さんはどうするだろうか?
 コップに水を入れて相手に渡す、という人が多いだろう。では、もし相手がそのコップを受け取ることを拒否したらどうだろう? 多くの人は「今、この人は水が欲しくないのだな」と判断して、コップを引っ込める。相手の顔を抑えつけて口を開けさせ、水を口の中に流し込む人は、あまりいない。ましてや、洗面台に水をためて、そこに相手の頭を突っ込んで飲ませようとすると、もはや拷問だ。
 実は大人たちは、子どもに似たような仕打ちを知らず知らずのうちにやっている。例えば、勉強だ。スポーツでも、もともとは本人が興味を持って始めても、つらい練習を毎日課されると、嫌になってしまう。勉強や部活が嫌で学校を休んだ子どもに、「やる気を起こさせる」と称して無理やり登校させようとするのは、水を飲みたがらない人の頭を水槽に突っ込むのと同じだ。
 人が何かに意欲を持つことを、「内発的動機づけ」という。「内発的」という言葉からもわかるように、意欲とはその人の内面からポジティブに湧き出てこないと意味がない。人に何かをやらせようとする場合に苦痛を与えたり懲罰をちらつかせたりして脅す人がいる。それだと一時的には渋々やるが、懲罰や脅しがなくなると、やらなくなる。やめさせまいと脅し続けていると、相手がいずれは精神的に参ってしまう。
 人の行動を変えるために叱る、脅すなどの強い態度で相手に迫るのは、総じて相手の活動エネルギーを抑制する。暴力やいたずらなどの行動の問題に対して叱ると、相手はやめる。これは問題ない。一方、意欲が低く行動しない相手を叱ったり脅したりすると、相手の活動エネルギーは下がり、意欲はますますなくなるので、逆効果だ。
 意欲を促すには、本人に十分な情報と選択の自由を保障することが大切だ。水の場合、コップに水を入れて見せることで情報を提示し、そのコップを受け取るかどうかは本人の自由意思に任せる。今は要らないと思えば断ればよいし、必要だと思えば飲めばよい。無理やり飲まされると、水に恐怖感を持ってしまう。勉強やスポーツも同じだ。どんな勉強、どんな練習法があるか、それをやればどのような効果が期待できるのか、何かリスクはあるのか、そういった情報がきちんと示された上で、自分の自由意思でやるかどうかを決める。そのようなプロセスを丁寧に繰り返すことで、初めて真の意味での意欲が形成されるのだ。
(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)
=第2、4水曜日に掲載します