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<52>時期に合った厳しさ

2015年08月26日

 子どもは、いつ頃から「世の中の厳しさ」を学び始めるのがよいだろう?
 まだ歯が生えていない乳児に、「将来生きていくために必要だから」と言って硬いものを食べさせようとする親はいない。一方、就職して間もない社会人が多少の苦労をするのは、世の中の厳しさを学ぶよい機会とみなされる。おそらく、世の中の厳しさを学び始めるのは、幼児期から成人するまでの間のどこかであることは問題なさそうだ。
 これだと、まだ幅が広過ぎると感じる読者が多いだろう。でも実際のところ、幼児期のうちから世間の荒波にもまれた方がよいと考えて、子どもにつらいことをどんどん体験させ、我慢を覚えさせようとする親は多いし、逆に大学生のわが子を親のコネで楽に就職させようとする親も多い。
 後者などは、子どもが大きくなっても世の中の厳しさを学ばせることを避けているように見える。不思議なことに、幼児期に子どもを厳しく育てようとしていた親に限って、子どもが高校生や大学生になって自分で進路希望を考えるようになると、「その進路では将来食べていけずに苦労するからやめた方がよい」などと言って、子どもが本当に世の中の厳しさを学ぶチャンスを奪おうとしたりする。このような親は、本当は子どもに世の中の厳しさを学ばせたいのではなく、親の言いなりにさせたいだけだ。
 世の中の厳しさとは、親が子どもに無理やり学ばせるものではなく、子どもが自分の意志で徐々に体験していくものなのだと思う。何か目標をもち、それに向かって懸命に努力して、でも目標になかなか到達しない、あるいは多くの壁にぶつかって挫折する。問題は、世の中の厳しさを体験した後に、それをバネにして新たな一歩を踏み出そうとする力に変えることができるかどうかだ。
 このように、スランプや挫折から回復し、それをバネにしてさらに前進する力は、心理学などでは「レジリエンス」と呼ばれている。世の中の厳しさを学ぶことの意義は、レジリエンスを身につけることに他ならない。適切な時期から適切な形で世の中の厳しさを学ぶことが、レジリエンスを身につけるために最も必要なことだ。小さいうちから厳し過ぎる環境で育てられた人は、自信に乏しくちょっとした失敗ですぐにくじけてしまう。近年のわが国で、能力が高いにもかかわらず自信がなく失敗を過度に恐れる人が増えていることの一因には、子どもたちが早くから世間の荒波にさらされ過ぎていることが関係しているのかもしれない。
(本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)
=第2、4水曜日に掲載します