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<1>切れた糸 結び直そう

2015年5月20日
ひきこもり経験のあるシロウ(左)の回復に向け、本人が興味を持つ山登りをサポートする柳沢仁さん。「困っている若者の力になりたい」と語る=甲府市内

ひきこもり経験のあるシロウ(左)の回復に向け、本人が興味を持つ山登りをサポートする柳沢仁さん。「困っている若者の力になりたい」と語る=甲府市内

 ひきこもりの当事者を支える行政の取り組みが進んでいない山梨で、「民」を中心に支援の動きが生まれている。ひきこもりは誰もがなり得る現象だ。だからこそ、当事者のためにできることをしよう-。県内各地で広がりつつある、個人、グループによる支援の動きを見つめた。〈「扉の向こうへ」取材班〉


 「さあ、行きましょう」。9日午前6時半、甲府・緑が丘スポーツ公園の駐車場。市内で登山用品店を経営する柳沢仁さん(58)=同市山宮町=の掛け声で、集まった40人が湯村山の頂に向かって一歩を踏み出した。雑談をしながら歩みを進める一行のなかに、昨春からひきこもり状態になったシロウ(19)=峡中地域、仮名=の姿があった。
 登山愛好家のため、毎週土曜日に湯村山に登る集いを開く柳沢さん。息を切らしながら歩くシロウの隣に駆け寄り、「きついだろう? でもみんなと一緒なら続けられるんだ」と声を掛ける。その言葉に、シロウもうなずいた。

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 柳沢さんがシロウと初めて出会ったのは1カ月前。2人の共通の知り合いである、南アルプス市市民活動センター所長の保坂久さん(54)の紹介だった。
 きっかけは、保坂さんが交流サイト「フェイスブック」に投稿した、ひきこもりを考える催しの告知記事。柳沢さんは投稿を見て、「山に登れば少しは変われるかも」とコメントした。
 柳沢さんは以前、ひきこもりがちの知人と山登りをしたことがある。道中に会話を重ねたことで、知人はわだかまりが少しはなくなったようだった。「『山は心の病院』とも言う。環境の変化は、本人の気持ちの変化をもたらすかもしれないと考えた」
 コメントを見た保坂さんから電話があった。「イベントに来てください。登山に興味がある、ひきこもりの子に会ってほしい」。それがシロウだった。
 イベントの当日、シロウを紹介された柳沢さんは自己紹介と雑談の後、こう伝えた。「土曜の朝、山に登っているから、よかったらおいで。無理しなくていいから」
 シロウはいじめをきっかけに高校で通信制に移った。専門学校に進んだが、いじめにあった経験から集団に入るのが怖く、通えなかった。学校は退学。家族以外との接点を失った。
 昨年9月に設立された、ひきこもりの子をもつ親の会「山梨県桃の会」で同じひきこもりの当事者と出会い、変化が生まれた。少しずつ他人と話せるようになり、別の集いの開催場所である市民活動センターで、所長の保坂さんとも知り合った。

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 ひきこもりは社会や学校で傷ついて自宅に撤退し、人間関係が途切れたり弱まったりしてしまった状態。もう一度つながりたいと思っても、ひきこもっている本人の努力だけでは他人と出会う機会は得られない。「外」のサポート、寄り添いが必要だ。
 シロウの場合、柳沢さんがフェイスブックに書き込まれた「ひきこもり」の言葉に素通りせず、メッセージを送ったことが出会いにつながった。柳沢さんは言う。「困っている若者の力になりたかった。これからも、できることはしていきたい」。個と個がネットを介して結び付き、生まれた「支援のかたち」だ。
 湯村山から下山したとき、柳沢さんは「この後、一緒に温泉に行くか? みんなで朝食も食べるんだ」とシロウを誘った。見知らぬ他人との風呂や食事。考えもしないことだったが、シロウは「はい」と即答し、自分のミニバイクを走らせた。新たな出会いが待っている場所に向かって。