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<45>国を覆う親子関係の危機

2015年05月13日
一歩一歩たしかめて

一歩一歩たしかめて

 ある朝、駅の階段を下りている会社員風の母親と2歳くらいの男の子の2人連れを見かけた。母親は、これから保育園に子どもを預けてから出社するのだろう。少し急いでいるらしく、子どもと手はつないでいるものの、やや急ぎ足で階段を下りている。表情は硬く、子どもの方を見ることはない。階段は全部で50段はあるだろうか。かなり長い階段である。子どもは母親に手を引っ張られ、ヨタヨタと下りている。階段の後半に差しかかったところで、少し疲れたのだろうか、子どもの足取りが重くなってきた。
 しかし母親は、子どもの変化に気づかずに同じペースで下りている。一瞬、子どもがよろめいて、2段ほどトントンと駆け下りるような形になってバランスを崩した。母親がすぐに子どもの手を引っ張り、体勢を立て直したので、階段を転げ落ちることはなかった。見ていた僕がホッとしたその次の瞬間、母親は子どもにこう言った。「何やってんの。危ないじゃない」。子どもはシュンとして少し泣きそうになりながらも、残りの階段をなんとか下りきった。
 この1回だけのエピソードで母親の態度を非難するのはフェアではない。たまたま急いでいる日で母親の機嫌が悪かったのかもしれない。あるいは、その男の子が普段はふざけてばかりなので、この時もふざけて危ない行動をしたと母親が思ったのかもしれない。でも、一部始終を見ていると、今回に関しては子どもが理不尽な叱られ方をされたことは明らかである。
 2歳の子どもが50段の階段を急ぎ足の大人と同じペースで下りることは難しい。多くの大人は、子どもが安全に階段を下りているかを確認しながら、子どものペースで下りるだろう。途中で子どもが疲れた様子を見せたら休憩するか、急いでいるのであれば後半は抱きかかえて下りてしまうかもしれない。いずれにせよ、子どもの現時点での能力がわかっていて、子どもの安全と健やかな心の成長を願う親であれば、このような場面でどう振る舞うべきかは自明のことだろう。
 ここまで来ると、通常は「親はもっと子どもを見てあげましょう」と結んで終わるのだが、「いや、実はそんなに簡単に解決する問題ではない」というのが、今回の趣旨である(回りくどくてすみません)。いま、このような親子関係が少しずつ、しかし確実にわが国を覆い始めており、その被害に遭う子どもたちが増えているように思う。その理由が大きく二つあると思うのだが、字数が尽きたので続きは次回に。
 (本田秀夫・信州大付属病院子どものこころ診療部 診療教授)
 =第2、4水曜日に掲載します