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息子の回復待ち続け20年 老いる親、見えない前途

2015年3月8日
ヒデキがひきこもってから、シゲルは階段を上った先にある息子の部屋が遠く感じられるようになった=郡内地域

ヒデキがひきこもってから、シゲルは階段を上った先にある息子の部屋が遠く感じられるようになった=郡内地域

 ひきこもりを考える連載企画「扉の向こうへ」取材班は、ひきこもる本人や親をはじめ、医療従事者、先進的な活動に取り組む行政や民間の関係者を取材してきた。その中で、多くの人々が深刻な問題として、ひきこもり期間の「長期化」と当事者たちの「高年齢化」を挙げた。ひきこもっている時間が長くなれば、当事者は年を取り、社会とつながる機会は得にくくなる。「親が老いていなくなった後、本人はどうなるのか」。重くのしかかる不安。山梨でも同じ問題が起きているのか。取材班は再び、県内の現場に分け入った。〈「扉の向こうへ」取材班〉

 ◇
 シゲル(79)=郡内地域=の家の2階に、長男ヒデキ(49)の部屋がある。夫婦と息子の3人暮らし。収入は妻と合わせて月十数万円の年金。自分も妻も、老いた。「親が生きているうちはいい。だけど、この先は…」
 居間から階段を上がってすぐのところに、息子の部屋はある。わずか二十数歩の距離が、遠く感じる。ヒデキがひきこもるようになって20年が過ぎた。たまに降りてくる息子の、しわが寄った顔と白いものが交じった髪を見るたび、通り過ぎていった時間の長さを感じる。

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 アパレル企業に勤めていた自分の影響か、ヒデキは少年のころから身だしなみには気を使った。高校に入ると、よそ行き用にしていたグレーの革靴を勝手に履いていった。人望が厚く、生徒会の役員も務めた。大学を中退し、県内の電子部品工場に就職。仕事に精を出し、工場でトラブルがあれば夜でも同僚から相談の電話があった。
 一部機能を東北地方の工場に移転する計画が持ち上がった。機械を移転先の工場で組み立てて、現地の作業員に使い方を指導する。ヒデキは十数人を束ねる責任者になった。宿に泊まり込み、半年以上も仕事詰め。長い出張だったが、それなりに楽しんでいる様子だった。移転計画は順調で、計画に携わる従業員は一人、また一人と少なくなり、息子だけが指導役として現地に残った。
 「宿泊先の布団から出られなくなった」。ある日、ヒデキの上司からかかってきた電話に耳を疑った。1991年の春、息子は憔悴した表情で自宅に戻ってきた。「何があったんだ」と尋ねても、「どうせ言っても分からない」と答えようとはしなかった。

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 貝のように口を閉ざし、部屋から出てこない。妻が料理を作ってドア越しに話し掛けても、「いらない」と、くぐもった声が返ってくるだけ。医師に相談すると「頑張れ、とは言わないでください」。言いつけを守り、うつ病の専門書を読みあさった。「そろそろどうだ」「一緒に仕事を探そうか」。何度ドアの前で口に出そうとしたことか。そのたびに「逆効果になる」「これ以上悪化したら…」との思いが頭をよぎり、言葉をのみ込んだ。
 自分が育てた子なのに、どう接していいのか、何と声をかければいいのか分からない。苦悩する一方で、いつか必ず良くなるはず、と希望もあった。不安と期待が交錯する日々。半年、1年、2年…。淡い期待は、いつしか消えた。この家にいるのに、姿が見えない。そんな「非日常」が、次第に「日常」と化していった。(文中仮名)

 この連載へのご意見や感想をお寄せください。記事で紹介させていただくことがあります。郵便番号400-8515、甲府市北口2の6の10、山梨日日新聞社編集局「扉の向こうへ」取材班(ファクス055・231・3161、電子メールkikaku@sannichi.co.jp)。