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<1>1割が「当事者」、秋田の町 訪問と支援、町ぐるみ

2014年12月23日
「こみっと」の運営について意見を交わす秋田県藤里町の社会福祉協議会のスタッフら=秋田県藤里町

「こみっと」の運営について意見を交わす秋田県藤里町の社会福祉協議会のスタッフら=秋田県藤里町

 ひきこもり当事者の実態調査の実績がなく、支援に足踏みしている山梨県内の自治体。一方で、全国にはひきこもりを社会的な課題と捉え、当事者の状態に応じた支援に乗り出している自治体がある。第4部は全国の先進地を訪ねた。〈「扉の向こうへ」取材班〉

 「東京で働いていた子どもが戻ってきたけど、外に出なくなってしまって」。2006年、秋田県藤里町社会福祉協議会係長の加藤静さん(44)は、訪問先の高齢女性から声を潜めて打ち明けられた。「ひきこもり」の相談だった。
 社協には、介護担当職員から同じような状態の人が他にもいるという報告が集まっていた。ある日突然ひきこもり、本人も家族も、誰にも相談できず悩み苦しんでいる。「支援の手段を持たないことに悔しさがあった」と振り返る社協事務局長の菊池孝子さん(52)。「ひきこもりは誰もがなりうる。本腰を入れて取り組まなければならない課題という意識が広がった」

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 ノウハウも先例もなかったが、訪問による実態把握と支援事業を並行して進める取り組みを始めた。町は人口3640人、ほぼ2人に1人が65歳以上の高齢者。平成の大合併で単独存続を選択し、職員と町民の距離は近い。呼び掛ければ応じてくれるはず、との考えもあった。
 実際に訪問すると、ひきこもりに関する「壁」は想像以上に高かった。世間に知られたくないという意識は強く、「もう来ないでください」と拒絶する人もいた。
 支援事業としては、まず集いの場を考えていた。ある日、ひきこもりとの情報があった男性が、社協の採用試験を受けに来た。男性の「働きたい」という訴えに、社協側は考えを改めた。加藤さんは「弱々しくて助けが必要な人たちだと思っていたが、違う。活躍の場を求めている人たちだと分かった」と話す。
 社協は2010年4月、労働体験ができる拠点施設「こみっと」を開設。職業訓練の場として食堂を営み、就職につながる介護職のセミナーを開いた。
 社協は訪問活動に力を注いだ。それまでの調査を基に、職員がひきこもりの当事者がいる家庭を訪ね、「こみっと」の情報を提供し、「食堂の運営やセミナーに参加しませんか」と促す。訪問を続け顔見知りとなった当事者から「介護以外の講座はないか」と聞かれると、新しい講座の立案に取りかかった。
 居酒屋、写真店、葬祭業…。町内で商売をしている人に講師を依頼し、さまざまな職を体験できる講座を設けた。できるだけ多くの選択肢を提供しようと考えての計画に、「少しずつ当事者が外に出てきてくれるようになった」。菊池さんら社協スタッフは手応えを感じていった。

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 訪問を繰り返すうち、社協側の「本気度」が伝わったのか、ひきこもり当事者の情報が次第に集まるように。調査の結果、18歳から55歳までの就学・就業世代の町民1293人のうち、ひきこもりの人数は113人に上り、10人に1人がひきこもりという実態が明らかになった。
 藤里町では現在も、社協職員がひきこもり当事者がいる家庭に足を運び、情報やニーズを掘り起こしている。訪問活動を通じて分かったのは、すべてのひきこもり当事者に通じる“正答”はないということ。菊池さんは言う。「何が求められているのか。当事者に伴走しながら、常に考えています」

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