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<1>自問繰り返す医師

2014年11月26日
診療所で机に向かう穂坂路男医師。診察が深夜に及ぶことも少なくない=富士河口湖町勝山

診療所で机に向かう穂坂路男医師。診察が深夜に及ぶことも少なくない=富士河口湖町勝山

 「ひきこもり」は病名ではない。職場、学校での体験や人間関係をきっかけに、長期にわたって家族以外と交流できなくなる状態のこと。特別な現象ではなく、誰もが陥る可能性がある。いま、医療の現場から「できることがある」と声が上がる。医学的なアプローチが有効な当事者がいる一方で、同一人物でも複数の医療機関から異なる診断をされたり、「病人」として切り離されてしまうと懸念する人は少なくない。回復へ医療ができることとは-。第3部はひきこもりと医療との関わりを考える。



 河口湖の南、住宅街の一角にある勝山診療所。富士北麓に専門医は少なく、心療内科の外来日である火曜日と金曜日は、診療所を取り囲むように長い列ができる。穂坂路男医師(46)は予約制にはせず、その日来院した全員を診察する。
 5時間待ちもあるが、途中で帰る人はほとんどいない。穂坂医師は「じっくり話を聞いていると、診察室の電気を消すころには午前1時を回っている」と苦笑する。

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 穂坂医師は14年前に勝山診療所を開設した。ひきこもりの相談は年々増え続けている。当事者や親から外に出られなくなった理由を聞いていくと、労働問題やコミュニケーションの問題に突き当たることが少なくないという。
 従業員の少ない牛丼チェーン店で長時間労働に耐えられなかった。同僚に罵詈雑言を浴びせられて人が怖くなった。就職氷河期に仕事に就けず、そのままひきこもりになった-。普通に働いて生活していた人が、ある日突然、ひきこもりになる。穂坂医師は「生きづらい」という言葉に接するたび、「誰が、いつ、ひきこもってもおかしくない時代」と感じている。
 以前診察した40代の男性は、周囲との人間関係に悩んでひきこもりになった。流通会社の支店長で、上司からのあいまいな指示が苦手だった。「うまくやっておいて」と言われても、どう「うまく」対応すればいいか分からない。上司の思うようにできずに叱られる。次第に周囲との折り合いも悪くなり、自信を失っていった。
 「眠れない。会社にも行きたくない。でも家族の手前、それもできない」と言う男性にうつ症状を認め、穂坂医師は薬を処方した。一時は快方に向かうと思われたが、ある日突然、仕事をやめた。離婚し、ひきこもりになった。

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 男性の通院は続いたが、診療所に来られる日もあれば、家から一歩も出られない日もあった。一時期は働けるまで回復したが、同僚とのコミュニケーションのつまずきや他人への恐怖感は消えなかったという。初診から10年。3カ月前に来院した際は「勤め先を見つけた」と言っていたが、その後連絡はない。
 当事者の話に耳を傾け、症状に応じて薬を処方する。明るくなったり、前向きな発言ができたりするひきこもりの当事者もいる。穂坂医師は「その姿を見るたび、医療が当事者のためにできることはあると強く思う」と語る。
 ただ、限界はある。薬はつらい気持ちを和らげることはできても、周囲との人間関係を改善したり、生きやすい社会をつくったりはできない。「ひきこもりという現象に、いまの医療はどこまで貢献できるのか」。穂坂医師の自問自答は続いている。〈「扉の向こうへ」取材班〉


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