30代女性。手のひらにたくさん汗をかいてしまい、恥ずかしくて人前に出せません。治療法はありますか。
回答者 山梨大付属病院皮膚科 原田 和俊医師
QOLの低下招く多汗症 塗り薬やイオン水で改善
-手のひらに多量の汗をかくということですが。
暑さ寒さに関係なく、手のひらや足の裏、脇の下に必要以上に汗をかき、日常生活に支障をきたす場合、多汗症の疑いがあります。多汗症には全身に多量の汗をかく全身性多汗症と、手足や脇の下など体の一部だけ発汗量が増加する局所多汗症があります。生死に関わるような怖い病気ではありませんが、QOL(生活の質)の低下を招き、精神的な負担になるケースも多くみられます。
-症状は。
相談者のように手のひらの多汗症では、「常に湿っている」人から「したたり落ちるほどぬれている」人までさまざまです。「手が常に湿っていて冷たい」「人と握手しづらい」、ひどくなると「字を書こうとしたら紙がぬれてしまった」「すべって物を持ちにくい」など、生活に支障を感じることもあるでしょう。ストレスを感じていると、緊張した時に普段よりも汗が出てしまうという悪循環の人もいます。
-原因は。
全身性多汗症は結核やバセドー病など、ほかの病気が要因となっている可能性があります。局所多汗症は遺伝的要素や交感神経の調整障害が関係しているとみられますが、通常手のひら1平方センチに700個あるとされる汗腺の数が特に多いわけでもなく、詳しい原因は分かっていません。社会的な活動が盛んでストレスも多い20~60歳代に多くみられる傾向があります。
-治療法はありますか。
手足や脇の下の場合、塩化アルミニウムをアルコールに溶かした塗り薬を処方します。汗から分泌されるタンパク質とアルミニウムが結合して汗の出口をふさぐ効果があり、次第に汗腺が減ってくるといわれています。手足を水道水に浸した後、20~30分通電し電気分解を行うと、水素イオンが汗腺に入って汗が止まる「イオントフォーレシス」という方法もあります。また脇の下に限っては、皮膚にボツリヌス毒素を注射すると、交感神経からの刺激が汗腺に伝わらなくなり、4カ月から半年間、発汗量を抑えることができます。
これらの方法でも効果がなく、患者さんの希望があれば、背骨の脇にある交感神経細胞を一部破壊する手術を行うこともあります。脳が発した「汗を出せ」という命令が汗腺に届くのを防ぐことで、ほぼ一生効果が続くとされています。ただ体の別の部分から手術の前より多量の汗が出る「代償性発汗」という副作用が起こることが分かっています。手術を行う際には、医師と相談して慎重に決めることが大切です。
-受診の目安は。
もともと汗は皮膚に潤いを与え、ばい菌を殺してくれる働きがあり、体にとって大切なものです。汗かきの体質や、緊張した時などに汗をかくのは普通なことです。気にしすぎることはありませんが、度を超えて多量の汗をかき、日常生活で困ることがあれば治療が必要でしょう。皮膚科を受診してみてください。