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<1> ついのすみか閉園

2017年11月14日
開園以来535人の高齢者を保護してきた大鶴楽生園。閉園によって郡内地域の養護老人ホームはゼロになる=上野原市大倉

開園以来535人の高齢者を保護してきた大鶴楽生園。閉園によって郡内地域の養護老人ホームはゼロになる=上野原市大倉

 「本年の12月で、この楽生園は閉園になります」。5月29日午後4時半、上野原市大倉の養護老人ホーム「大鶴楽生園」の多目的ホール。入所している高齢者30人の前で、職員が申し訳なさそうにそう告げた。突然の発表にカズオミさん(70)=仮名=はぼうぜんとした。
 郡内地域に暮らして40年。11年前に妻を亡くし、離婚した娘と孫2人とともに暮らしていた。入所は3年前。きっかけは娘からの虐待だった。

◎着の身着のまま
 小学生の孫と風呂に入ったとき、背中が青黒く内出血しているのに気付いた。「どうした」と聞くと「学校で机にぶつけた」と言う。だが、位置が高すぎる。「本当のことを話してごらん」。沈黙の後、口を開いた。「お母さんにやられた」
 とがめると、娘の憤りはカズオミさんに向けられた。大声で怒鳴る、鉄製の棒で何度もたたく。孫に大人のけんかを見せたくないと、背中を丸めて耐えた。だが、限界が来た。「じいじは知り合いに相談してくるから、ごめんな」。3年前の12月、孫にそう言って家を出た。
 着の身着のままで師走の町へ。助けてくれる知り合いはいない。財布には1500円だけ。駆け込んだ警察署で、役所の職員に案内されたのが大鶴楽生園だった。
 人見知りする性格で、入所したばかりのころは自室にひきこもりがちだった。娘に傷つけられたあざを見られるのが嫌で、他人がいないのを見計らって大風呂に入った。
 そんなカズオミさんに、職員は和やかに声を掛けた。最近、朝夕は冷えますね。裏庭にタンポポの花が咲いたんですよ-。少しずつ職員やほかの入所者と、たわいない冗談が言い合えるようになった。
 入所者の身の上は人それぞれだった。子どもと疎遠になって入った人もいれば、自宅が火災に見舞われて住む家もないという高齢者も。皆、さまざまな苦難を背負い、たどり着いた場所が大鶴楽生園だった。「ここをついのすみかにしたい」。カズオミさんが、そう願った矢先の閉園通告だった。

◎一から関係築く
 養護老人ホームは人間関係に恵まれず経済的に困窮した高齢者を保護する施設で、1952年に設立された大鶴楽生園は99年から県東部広域連合が運営。施設の老朽化に加えて、近年は入所者が定員を下回るなど運営難が続いた。広域連合は施設を存続させるために民間委託を模索したが、事業者との最終合意には至らず閉園を決定。開園から535人を保護してきた施設の閉園によって、郡内地域の養護老人ホームはゼロになる。
 カズオミさんは閉園を前に施設を出て、別の養護老人ホームで生活を始めた。古希を迎えて住み慣れた土地を離れ、一から人間関係を築いていかなければならない。不安は募るが、どうしようもない。「ほかに行くところはないのだから」

 養護老人ホームの運営が岐路に立っている。県内に12ある施設の利用率は67%(4月時点)で、介護保険制度が始まった2000年度以降で最低。背景には市町村が高齢者を積極的に保護しない「措置控え」の影響もあると指摘されている。困窮した高齢者の「最後のとりで」とも呼ばれる養護老人ホームの現状と課題を取材した。
〈前島文彦、戸松優〉