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<52>まずは聴いてあげよう

2017年08月16日
まずは相手の話を聴き、思いを受け止めてみよう

まずは相手の話を聴き、思いを受け止めてみよう

 私の診察につく看護師さんから「先生は甘過ぎる」と言われることがある。患者さんの愚痴やわがままな訴えを延々と聞いている様子を見ると、「甘やかし過ぎ」に見えるらしい。しかし、それが「甘やかすこと」にはならないと知ったのは、わが子の子育てを通じてだった。
 子育てに悪戦苦闘していたある日、見知らぬおじさんが突然わが家を訪ねてきた。各家を回って子育ての啓蒙をしているという。いただいた手刷りのパンフレットを何げなく読んでいた私は、ある1点で目が止まった。
 お菓子を欲しがる子どもとお母さんのやりとりだった。駄々をこねる子に、お母さんは「さっき食べたばかりでしょ」とはねつける。子どもはますます駄々をこねる。では、どうすればいいのか? パンフレットは提案する。お母さんは、お菓子を欲しい、その気持ちをわかってあげた上で、今は自分が洗い物をしていて、終わったらあげるから、それまで外で遊んでおいでと言う。そうすれば子どもは元気に外に飛び出し、「そのうちお菓子のことなど忘れているかも」というのだ。
 それを読んだ時、わが子はもとより、患者さんの無理難題の数々を思い出した。当時の入院患者さんの多くは長期の入院で「退院したい」が口癖だった。私は日々それができない理由を伝え、なんとか納得させようと疲れていた。そうか、まずわかってあげればいいんだ。退院する、しないの話はそれからだ。医師になって3年はたっていたと思う。その日のことは今も忘れない。
 先日、新聞の投稿欄に似たような話が載っていた。「入院している部屋に認知症のお年寄りがいる。夜になると『家に帰りたい』と興奮し大騒ぎになる。そこへ若い看護師さんがやってきた。看護師さんは優しく話を聞き、『そうね。じゃあ、帰りましょう』と靴をはかせ、車いすに乗せて部屋から出ていった。そして30分もした頃、ふたりは帰ってきた。患者さんは満足してベッドに入り、まもなく寝息を立てて眠ったようだった」。私たちは子どももお年寄りも、そして働きざかりの人だって、みな「わかってほしい」と思っている。それは誰もが持っているあたり前の気持ちで、決して甘えでもわがままでもない。
 子育てや治療にかぎらず、受け入れがたい相手の言い分に悩まされることは多いだろう。しかし考えが違っても自分の考えは脇に置き、まずは相手の話を聴き、その思いを受け止めてみよう。こちらの気持ちや言い分は、その後で相手の目をしっかりと見ながら伝えよう。「思いをわかってもらうこと」は、人間にとってそれだけ大切な生きる根幹をなすものだから。
(写真も、韮崎東ケ丘病院長)
 =第1、3水曜日に掲載します